短編 | ナノ


▼ 五伏




「ハァ……」

困った。自分のことしか考えてなくて布施がそんな風に思ってくれてるなんて考えても見なかった。というか布施は女の子大好きだと思っていたので更にビックリした。

といっても僕の答えは一択だ。僕の好きな人は伏見さん。好きでもない人と付き合うような中途半端な真似は性に合わない。
でも、言いづらい。とてもあの傷ついたような表情に弱いのだ。

「ハァ……」
「ハァハァハァハァうるせーぞーゴッティーらしくねーなー」
「!」

見上げれば日高が呆れたようにこちらを見ていた。だってしょうがないじゃないか。いつもみたいに笑って気軽に流せることじゃない。布施は大事だ。
それにもう2週間伏見さんとまともに話せてない。もう墓に入る準備しようかな。

「日高ぁーーー」
「おわっ!なんだよやめろよっくははっ擽るな!」
「日高ぁーーーーー」
「っやめろつって…ッちょっ、待っ」

「うるせえな」

低い冷たい声が僕たちの声の間を裂くように響き、空気が張り詰める。言わずともその声の主は分かりきっていて、今日は一段と機嫌が悪いらしいので平謝りしたあと大人しく僕たちは自分の仕事に戻った。

あー怖いけど可愛いなー伏見さん…こうやってチラ見することしか出来ないなんて、つらい。なんでもいいから伏見さんと仲直りしたい。喧 嘩したつもりもないのだけれど。








室長から久々に呼び出された。近頃はストレイン関係の事件もなく、書類を捌く事務作業に追われていた毎日で自分から室長の元へ出向いて書類を渡しに行く事はあっても、呼び出されることは最近はなかった。
こういう時は決まって任務の話だ。これからまた面倒な任務を押し付けられることを考えると気が滅入る。


「…伏見です」
「どうぞ、入ってきても構いません」


扉を開けば当たり前のようにジグソーパズルをしている室長。この人言われないと仕事をしないのか。こっちは汗水流してせっせと働いてるっていうのに…

「今日はなんの任務ですか」
「ふふ、流石は伏見くん、察しが良いですね」
「もうこのパターンは慣れましたから」
「そうですか」

ジグソーパズルをする手を休めずに話を続ける室長は毎度ながらやはりキモい。なんか全体的にムカつく。

「君は最近五島くんと喧嘩でもしたのですか」
「……!」
「私が気付いていないとでも思いましたか?別に喧嘩するのは自由ですが仕事に支障をきたすのは感心しませんね」

ドン、と数十枚の書類が置かれる。どれも初歩的なミスです、数分で直せるでしょうけど、と呟く室長。こんな失態はセプター4に入って初めてだった。

「ふふ、すごく愉快ですね君のその拍子抜けした顔。」
「…チッ」
「まあいいですけど。明日までに直してくださいね」
「…はい」

早速ミスした書類を手に取ろうとすると、室長がああ、用はこれだけじゃないですよ、と引き止めた。

「さっき君が察したように今日は任務があります。2人ペアなのでさっさと終わると思いますよ。」
「ペア?」
「ええ。五島くんと任務にあたってもらいます。」
「なっ…!?」
「異論は認めません」

そう言って微笑む室長の瞳の奥は全然笑ってなどなく、いつもなら反発するところだがこんな時は室長に何を言っても無駄だということは知っていた。今の自分には言いたいことを飲み込むしか選択肢はなかった。



「五島」


久しぶりにその声で名前を呼ばれたと思う。幻聴かと思いスルーしようとしたが突如後頭部に襲った激痛がそれを阻止した。

「痛ぁ…」
「シカトしてんじゃねーよ」
「すみません、だって伏見さんが俺のこと呼ぶなんて最近な」
「明日俺とお前だけで任務がある。7時に椿門に来い」
「え」
「用はそれだけだ」

神様が僕に味方してくれたのかそうか…そんな浮ついたことを考えていると伏見さんは怪訝な顔をしたまま踵を返して自分の持ち場へ戻っていく。

「伏見さん!」

思わず手を取って引き止めてしまう。一瞬伏見さんが硬直して若干顔を赤らめたけどすぐに離せ!と僕をぶん殴ったので話せることはなかった。ていうか何、あの顔。

「ーーーっ反則ですよ。」

別に嫌われてるわけではなさそうだ。よかった。

すっかり布施のことは僕の脳内から消えていた。朝あんなに悩んでいたというのに、あの人と話せるだけで、こんなにもいっぱいいっぱいになってしまう。

任務が楽しみだなんて、初めてだ





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